はじめに
今年(2022年)の6月に新居に引っ越したのですが、その新居に防音のプライベートスタジオを作りました。
電子ドラムではなく「アコースティック・ドラムが叩ける防音スタジオ」を自宅に作るというのはドラマーなら誰もが実現したいと願う夢でありながら、ハードルが高いのも事実です。
そこで今回の僕の経験を記事にまとめておくことにしました。防音スタジオを作ることを検討している人の参考になれば幸いです。
なぜスタジオを作ることになったか
以前の自宅(戸建て)ではアコースティック・ドラムと電子ドラムを組み合わせたハイブリッド・キットでレッスンや練習、レコーディングを行っていました。以下の記事でも紹介しています
これはこれでメリットも沢山あったのですが、部屋そのものが狭かったり、レッスンでアコースティック・ドラムの良さを伝えきれないというストレスも少なからずありました。
2021年の春頃、詳細は省きますが現在の新居(築30年の戸建て)に引っ越すプランが浮上。新居は以前の自宅よりも広く、これならリフォームをして「アコースティック・ドラムが叩ける防音スタジオ」を作れるかも知れないと防音スタジオに関する情報を調べ始めました。
設計プラン
今回のスタジオ作りで掲げた要件は以下の6点。
- アコースティック・ドラムの演奏およびバンド演奏(100〜120dB程度)が可能であること
- 家の外に対して、24時間演奏可能な防音を実現すること
- リハーサル、レコーディングが行える音響にすること
- 長時間過ごしても心地良い空間であること
- 撮影映えする内装にすること
- 十分な換気機能を確保すること
以上の点を実現しつつ、スタジオ面積は出来る限り広く、コストは出来る限り抑える(笑) このバランスが本当に難しかったです。
施工に関しては防音工事を専門にしている4社と現地打ち合わせを行い、各社から見積とプランの提案をいただいた上で、防音ファクトリーさんにお願いしました。度重なる確認や変更にも嫌な顔ひとつせず対応いただき感謝しています!
防音ファクトリー WEBサイト
https://bouonfactory.com/
防音工事の内容
具体的にどんな工事をして防音をするのか?
今回の工事で行ったことをざっくりまとめておきます。
- 振動を極力抑える為、床・壁ともに湿式工法(コンクリート)で施工
- 天井高(2,700mm)を確保する為、床を建物の基礎部分まで下げる
- 窓はすべてなくし壁に
- 防音ドアは鋼鉄製と木製の二重扉
- 壁と天井は3層構造(厚みは約400mm)
- 換気扇、エアコンのダクトは防音仕様
その結果どうなったかと言うと、もともと15帖あった部屋が施工後は10帖に…。事前の調査で狭くなることは分かっていたものの、いかに防音というものが難しいかを思い知らされました。
完成したスタジオと間取り
そして、完成したスタジオがこちら。
和室の面影はゼロ。壁紙やフロアパネルはすべて指定して、見事に自分好みの内装に仕上がりました。2本の柱は梁を支えるのにどうしても外せないということで、化粧柱にしてもらいました。
外観はこちら。「窓のない真っ黒な家」は相当目立つようで、完成当初はご近所さんの間で「あの怪しい家はなんだ」と噂になっていたそうです(笑)
ちなみにスタジオの真上はルーフバルコニーになっています。
スタジオの平面図はこちら。壁の厚さがよく分かります。
フラッターエコー対策として平行な壁を作らないことも検討しましたが、そうするとどうしても部屋が狭くなってしまうのでドラムの正面に位置する扉の面のみ斜めに。他の面は吸音パネルと機材を設置することで対策としました。
ちなみに、平面図右上の斜めの壁の内部には吸音材(高密度のグラスウール)がこれでもかと詰め込まれています。
音響調整
ネット上でもよく混同されている「遮音」と「吸音」(「防音」は「遮音」と「吸音」の総称)。
簡単に書くと、「遮音」は部屋の外に漏れる音を軽減する為にあえて反射させる方法。「吸音」は音の反射を軽減させるために音を吸収する方法です。
つまり、まったく別の話なんですね。
そして、心地良い音響を作る為には吸音対策が何より重要ということ。
実際、吸音パネル設置前にドラムセットを運び込んで演奏してみたのですが、銭湯で演奏するくらい反響しまくってました(笑)
この音響調整はスタジオ工事が終わった後に行うのですが、色んなスタジオに足を運んで好みの響きを見つけ、それを防音ファクトリーさんと共有してから実施してもらいました。
ただ、工程的に微調整しながら進めるということが不可能だったので、そこは正直不安でしたね。
結果的には自分好みの音響に仕上がり、少し気になったシンバルの反響も衝立式の吸音パネルを追加してもらうことで解消しました。
今後使う中で出てくる課題については新たに吸音材を追加するなどして解決していきます。
防音効果
無事にスタジオが完成したは良いものの、これだけの工事をしたのに隣家からクレームが来たら意味がありません。そんなことになったら泣きます。
果たしてどのくらい効果があるのか?ちゃんと測定してもらいました。
その結果がこちら。
Aはスタジオの二重扉の前、Bはスタジオの隣にあるリビング、CとDは家の外。
いわゆるDr値でおおよそ70〜80の遮音性能という結果でした。
屋外に関してはそもそも存在している騒音(生活音や車・電車の音など)の方が大きい状況。スタジオの外壁に耳を当ててかすかに聞こえるレベルなので、静まり返った深夜だとしても隣家の中ではまず聞こえないでしょう。とは言え、礼儀として隣家にはちゃんと挨拶に伺ってご説明しました。
では、家の中はどうか?
これは残念ながら聞こえます。
事前に分かっていたことですが、やはり家の構造として繋がっている以上、振動をゼロには出来ないんですね。どれくらい聞こえるかというと、リビングだとテレビをつけていれば分からないレベル。日中は問題なくドラムを叩けます。
ただ、2Fにある寝室は就寝時には気になるだろうということで、現在は息子(7歳)が寝る時間以降は叩かない運用にしています。
費用
さて、この防音工事で総額いくら掛かったのか?
読んでくださっている方には一番気になるポイントだと思いますので、包み隠さず公開します。
こちらです!
¥5,995,000
税込みです。
高いと感じるか、妥当と感じるかは人それぞれだと思いますが、木造戸建てのリフォームでこの記事にあるような内容だとおおよそこれくらいは掛かるということです。
ちなみに、これより高い見積だった業者さんもおられました。
僕の場合、自分の練習用だけではなく、むしろレッスンやレコーディング、撮影など仕事として使うことを前提としていますので決して高くはないと思っています。
なお、上記はスタジオを作る工事のみの金額ですので、スピーカーやミキサー、パワーアンプ、オーディオI/O、マイク、ケーブル類などで別途150万ほどの費用が掛かっています。さらに住居スペースもリフォームしたので人生で一番お金を使いました(笑)
良かった点
自宅に防音スタジオを作って良かった点を挙げていきたいと思います。
- 移動時間のロスがない
- (制限はあるものの)いつでも自分のドラムを叩ける
- アコースティック・ドラムを使ったレッスンが出来る
- 時間を気にせずチューニングやマイキングなどの研究が出来る
- バンドのプリプロ、レコーディングコストの低減
- 仕事の増加
- 練習時間の増加
- リスニング環境の向上
- モチベーションUP
特にレッスンの生徒さんたちはこのスタジオをとても喜んでくれて、これまで以上に充実したレッスンが行えています。移転後6ヶ月で生徒数は1.5倍になりました。
LimelightドラムスクールのWEBサイトはこちら。無料体験レッスンもやってます。
反省点
概ね満足しているのですが、あえて挙げるとすればこの辺りでしょうか。
- 照明をもっと検討すべきだった
普段は全く問題ないんですが撮影となるとやや暗い - 防音扉は2枚とも鋼鉄製の方が良かったかも
とは言え、1枚50万…。家の中への効果はそれほどないかも - 収納スペースを作れば良かった
自分の機材量を甘く見てました。今なら飛行機についてる荷物棚みたいなのをつけます - 業務用のエアコンにすれば良かった
気密性が高いゆえに湿度がなかなか下がりません。追加で除湿機を買いました
もし次回スタジオを作る機会があればリフォームではなく新築で建てたいですね。その方がコストも抑えられるし、設計の自由度も高い。
それか倉庫みたいなところをまるっと借りるか。天井の高さは正義。
実現出来るように頑張ります。
まとめ
というわけで、防音スタジオ作りのあれこれをまとめてみました。
結論としては「作って良かった!」の一言です。決して安い買い物ではないですが、トータルで考えれば何倍ものリターンを得られると思います。
この記事がスタジオ作りを検討している人の参考になれば幸いです。