僕が最も尊敬するドラマー、Terry Bozzio (テリー・ボジオ)。
1950年生まれということなので、今年で何と69歳(!)。衰えることのないそのチャレンジ精神、向上心は止まるところを知らず、年齢を感じさせないプレイスタイルで世界中の人々を魅了し続けています。この記事を書くにあたって色んな参加作を聞き直してみたのですが、改めてそのカッコ良さに惚れ直しました。一般的には超絶難解なイメージが強いドラマーだと思いますが、実は凄く歌心のあるドラマーなんですよね。
今回は僕の愛聴盤を中心に、Terry Bozzioの代表作を紹介したいと思います。
Zappa In New York / Frank Zappa
Terry Bozzioの本格的なキャリア・スタートはこのザッパ・バンドから。
Frank Zappa (フランク・ザッパ)は音楽史に名を刻む天才的変態ミュージシャン。ザッパ・バンドから飛び立ったミュージシャンは数知れず(Steve Vai、Adrian Belew、Warren Cuccurullo、Vinnie Colaiuta、Chad Wackerman、etc…)
そんな彼の常人には理解も演奏も困難な複雑怪奇、だけどキャッチーでどこかコミカル楽曲を支えていたのがTerry Bozzioです。それはこの傑作ライヴ・アルバムを聴けば明らか。
中でもFrank ZappaがTerry Bozzioの為に書いたと言われる超難曲”Black Page#1″は必聴です。
Heavy Metal Be-Bop / The Brecker Brothers
The Brecker Brothers (ブレッカー・ブラザーズ)の4thアルバムにして伝説的な名盤。
フュージョンというよりもむしろロックに近い、荒々しくハイ・テンションなサウンドが聴く者を圧倒します。
そして、このロックぽさを生み出しているのがTerry Bozzioのドラミング。生々しい音で繰り出される手数足数の多さ、ハイハットのうねり。このグルーヴは絶対にTerry Bozzioにしか出せません。
あまりにも有名な名曲”Some Skunk Funk”を収録。
Danger Money / U.K.
Bill Brufordに代わりTerry Bozzioが加入し、John Wetton(Vo/Ba)、Eddie Jobson(Key/Vln)とのトリオ編成となったU.K.の2ndアルバム。
U.K.の作品はどれも(3枚しかないけど)素晴らしいのですが、その中でも特にTerry Bozzioが在籍したトリオ時代のこの「Danger Money」と、ライヴ・アルバム「Night After Night」の2枚はまさにマスター・ピースと呼ぶに相応しい大傑作であり、その全てが名曲、名演。プログレのひとつの完成形がここにあります。
これを聴かずしてTerry Bozzioは語れません。
Group 87 / Group 87
このGroup 87はPeter Maunu(Gt)、Patrick O’Hearn(Ba)、Mark Isham(Tp/Key)の3人によるユニット。
Terry Bozzioはゲスト参加ですが、その”アンビエント・フュージョン”とでも呼びたくなるような透明度の高いサウンドをそれまでの参加作とは打って変わって、必要最小限の音数で見事に演出しています。
ただ手数足数が多いだけではなく、こういったイマジネーション溢れる繊細なプレイが出来るところもTerry Bozzioの魅力ですね。
Spring Session M / Missing Persons
Terry Bozzioが参加したパーマネントなバンドの中で最も有名なのが、このMissing Persons (ミッシング・パーソンズ)でしょう。大胆なエレクトロニクスの導入や、過激な衣装、ステージ・パフォーマンスなど、Missing Personsは時代を先取りし過ぎたバンドでした。
メンバーは、当時Terryの奥さんだったDale Bozzio(Vo)、後にDuran Duranに加入するWarren Cuccurullo(Gt)、Group 87にも参加していたPatrick O’Hearn(Ba/Syn)。なんと全員がザッパ・バンド出身者(苦笑)
普通こんなメンツなら超絶技巧だらけの難解なサウンドを予想しますが、蓋を開けてみればテクニカルな要素は控えめで、あくまでDaleのヴォーカルをメインに据えたエレクトロ・ポップス。
Terry Bozzioはエレドラも導入し、ダンサブルとも言えるシンプルなビートに基本的に徹していますが、時々顔を覗かせる強引な高速タム回しや、リズミカルなリニア・フレーズなど、思わずニンマリしてしまうポイントは意外に多いです。作品としては「Spring Session M」が一番完成度が高いですが、モダンさとポップさを増していく2nd以降もおすすめです。
後年リリースされたライヴ・アルバム「Late Nights Early Days」ではバンドの驚異的なミュージシャンシップの高さを知ることが出来ます。
Guitar Shop / Jeff Beck
言わずと知れた天才ギタリストJeff Beck (ジェフ・ベック)のグラミー受賞アルバム。
Tony Hymas(Key)を加えたベースレスのトリオ編成での作品なのですが、決して物足りなさはなく、むしろその分Jeff BeckのギターとTerry Bozzioのドラムが前面に押し出されていて2人のプレイを堪能出来ます。当時としては革新的なサウンドだったんじゃないでしょうか。
Terry Bozzioはあまり派手なプレイはしていませんが、バラエティ豊かな楽曲の中でさり気なく登場するリズムパターンの数々が見事。
同じメンバーでのオフィシャル・ブートレグ「Jeff Beck Live」も、音は悪いですが生々しいプレイを楽しめます。
The Lonely Bears / The Lonely Bears
Tony Hymas(Key)、Hugh Burns(Gt)、Tony Coe(Sax)、そしてTerry Bozzioという4人で結成されたジャズ・ロック・バンド、The Lonely Bears (ロンリー・ベアーズ)の1stアルバム。
とりあえず「叩きまくりのボジオを聴きたい!」という人ならこれでしょうね。インプロヴィゼーション主体のフリーな展開の中で縦横無尽に叩きまくっています。随所に盛り込まれた民俗音楽要素も効果的。
Sex & Religion / VAI
同じザッパ・バンド出身であるSteve Vai(Gt)がTerry Bozzioをはじめ、T.M.Stevens(Ba)、Devin Townsend(Vo)と共に結成したバンド、VAIの唯一のアルバム。
メンバーだけでも相当凄いですが、中身はもっと凄いです。Steve Vaiのインスト代表作が「Passion & Warfare」だとしたら、ヴォーカル代表作は間違いなくこれ。当時、若干21歳のDevin Townsendのヴォーカルが圧巻です。
ロック、ポップス、ジャズ、フュージョン、現代音楽…、どんなジャンルであろうとすぐにそれと分かるプレイをしてきたTerry Bozzioですが、それはメタルでも全く変わらず。唯一違うのはツーバス踏みまくってる事くらい(笑)
金髪に乳首ピアスのルックスが最高に素敵です。
Rush Street / Richard Marx
意外なところでこんなアルバムもご紹介。
バラード・シンガーの印象が強いRichard Marx (リチャード・マークス)ですが、このアルバムはかなりロック。
Terry Bozzioは2曲のみしか参加していませんが、これがカッコ良いんです。特にSteve Lukather作曲の”Playing With Fire”のギター・ソロ後のフィル!シンプルなフレーズを叩いてもやはり一級ですね。
ちなみにこのアルバム、他にもJeff Porcaro、Tommy Leeなどが参加していて、ドラマー的にかなり美味しいアルバム。
Hide Your Face / hide
Xのギタリストhideのソロ・デビュー作にして最高傑作。僕が初めてTerry Bozzioを知った思い出深い作品です。
ベースはT.M.Stevens。そう、VAIの「Sex & Religion」と同じリズム隊です。
この最強リズム隊が参加しているのは5曲(“Dice”、”Eyes Love You”、”T.T Groove”、”Blue Sky Complex”、”Honey Blade”)だけですが、そのどれも期待を裏切らない素晴らしいプレイを披露しています。
何よりこのアルバムは曲が良い。hideが如何に優れたメロディ・メイカーだったかを証明している永遠に色褪せない一枚です。
ちなみにジャケットの仮面は「エイリアン」で知られるHR Giger作。
Polytown / Polytown
David Torn(Gt)、Mick Karn(Ba)、Terry Bozzioという個性的な世界観を持つ3人のミュージシャンによって編み出される摩訶不思議なサウンド。
テクニカルな難解さはありませんが、研ぎ澄まされた一音一音が難解で深遠。Terry Bozzioもドラマーというより元々の出自であるパーカッショニストとしての表現が目立っていて現在のソロ活動に非常に近い印象を受けます。
インプロヴィゼーション主体ではありますが、3人のファンなら聴いて損はないアルバムです。
Thank You / Duran Duran
Duran Duran (デュラン・デュラン)が影響を受けたアーティストたちの楽曲をカヴァーしたアルバム。
恐らくWarren CuccurulloとのMissing Persons繋がりからなのだと思いますが、Terry Bozzioも3曲に参加しています。
その中でも、アルバム・タイトルにもなっているLed Zeppelinの”Thank You”は出色の出来。John Bonhamとはまた違ったアプローチで楽曲に彩りを添えています
Black Light Syndrome / Bozzio Levin Stevens
Steve Stevens(Gt)、Tony Levin(Ba)と共に結成したユニット、Bozzio Levin Stevensのデビュー・アルバム。
インプロヴィゼーション主体とは言え、何もない状態からわずか5日間でここまでの作品を生み出せるのかと発売当時、衝撃を受けた記憶があります。
スタイルの違う3人の化学反応によって生まれたサウンドは、浮遊感を漂わせながらも決して緊張感は失わない唯一無二のもの。Terry Bozzioもここぞとばかりにトレード・マークのチャイナ・シンバルを叩きまくっています。
ちなみに、2ndアルバムでは「1週間だけ」事前にリハーサルをしたそうで、1stよりは曲が作り込んであってかなり聴き易くなっています。
似たような環境で同じく2枚のアルバムを作った”ほぼDream Theater”のLiquid Tension Experimentと聞き比べると、その表現手法や作曲アプローチの違いが感じられて非常に興味深いです。
Zoom / The Knack
「マ、マ、マ、マーイシャローナ」で知られるThe Knack (ザ・ナック)にTerry Bozzioがまさかの参加。
The Knackの大ファンだったTerry Bozzioからアプローチしたらしく、しっかりジャケットにも写っています(笑)
如何にもギター・ポップな作風なのに、リズムだけが異様に際立って聞こえるある意味レアな作品と言えるのではないでしょうか。
Age of Impact / Explorers Club
MagellanのリーダーTrent Gardnerが立ち上げた豪華プログレメタル系ミュージシャン参加の一大絵巻。
書き出すと本当にキリがなくなる豪華ミュージシャンたちの中でも目立っているのはやはりTerry Bozzio。乾いたハイ・ピッチのサウンドで、複雑な変拍子を物ともせず縦横無尽に叩きまくっています。
楽曲も充実しているこの1stから一転して、2ndの「Raising the Mammoth」は曲がイマイチで残念な出来でした……。
Untitled / Korn
誰もが耳を疑ったKornのアルバムへの参加。
強烈な個性を持つKornとのコラボレーションは、意外にもTerry Bozzioのドラムサウンドを中心に据えたアコースティックな響きを含んだものでした。Korn史上最もメロディアスなアルバムと言っても過言ではないでしょう。
サウンドではなく、プレイでヘヴィネスを表現するTerry Bozzioのドラミングは痛快そのもの。曲中で長尺のドラムソロまで披露しています。
Chamber Works / Terry Bozzio
Terry Bozzioの代表的ソロ・ワークのひとつであるオーケストラとの共演をレコーディングした作品。
ドラムとオーケストラのみで演奏されるその楽曲は、ロックやジャズといった要素は皆無で完全にクラシック。ストラヴィンスキーなどの現代音楽からの影響もかなり感じられます。
曲が良いかと言われればそうでもないんですが(苦笑)、ここでのTerry Bozzoのアプローチはかなり興味深く、また参考になります。完全にドラマー向けの作品ですね。